トラックの軌跡図と最小回転半径:諸元表の値から所要道路幅を確かめる

トラックの軌跡図が要るのは、搬入路や荷さばき場にその車が入るかどうかを図面で確かめるときです。手元にあるのはたいていメーカーの諸元表に載った最小回転半径という1つの数値です。道路構造令の設計車両の表にも、4種類の車両それぞれに最小回転半径の欄があります。この記事は単車(連結していないトラック)について、諸元表のどの値を使うのか、最小回転半径が何を測った値なのか、そして図面の上で本当に必要になる掃過範囲をどう出すのかを順に扱います。
メーカーが出しているもの、出していないもの
いすゞ自動車は、トラックとバスの代表車型について主要諸元・車両外観図・旋回軌跡図を自社サイトで公開しています。案内文にはこうあります。「トラックおよびバスの代表車型による主要諸元、車両外観図、旋回軌跡図をまとめました。建築設計の際の車両限界の確認などにご活用ください」。設計する側に向けて出している資料です。
同じページに、メーカー自身の注意書きが2つ付いています。1つは代表性について。「この旋回軌跡図(回転軌跡図)は直角旋回時に必要な所要道路幅を示すものとして、車型バリエーションの中で最も代表的なものを選択しています。そのため車型によっては、この旋回軌跡図と所要道路幅が異なる場合がありますので、ご注意ください」。もう1つは余裕幅について。「この旋回軌跡図で車両通過のできる道路幅を検討する場合は、1m以上を余裕幅として考慮してください」。
そのうえで、「車両外観図、旋回軌跡図のCADデータをお送りすることはできません」とも明記されています。つまり読める数値とPDFの図はあるのに、自分の敷地の図面に重ねられる線は手に入りません。この記事の残りは、その隙間をどう埋めるかの話です。
諸元表から取る値
作図に要るのは重量ではなく寸法です。全幅、全長、軸距(ホイールベース)、前端オーバハング、そして最小回転半径。車両総重量や最大積載量は、どの車型の表を見ているかを確かめる手掛かりにはなりますが、掃過範囲の形には効きません。
いすゞが公開している代表車型のうち、小型車・中型車・大型車から1台ずつ並べます。
| 車型(車両型式) | 全長 | 全幅 | 全高 | ホイールベース | 最小回転半径 |
|---|---|---|---|---|---|
| エルフ 小型車 2t標準キャブ 平ボディ 標準ボディ(TRG-NJR85A-EE6AA-D) | 4,685mm | 1,695mm | 1,960mm | 2,490mm | 4.5m |
| フォワード 中型車 カーゴ 標準幅 フルキャブ(2RG-FRR90S2-NCYS) | 8,485mm | 2,260mm | 2,550mm | 4,860mm | 7.2m |
| ギガ 大型車 カーゴ 6×2(2WG-CYL77D-VX-D) | 11,810mm | 2,490mm | 3,730mm | 7,125mm | 10.4m |
エルフは車両総重量4,375kg・最大積載量2t、フォワードは車両総重量7,900kg、ギガはGVWクラス25トンです。
「2t車」「4t車」「10t車」という呼び方は最大積載量から来た通称で、寸法を決めるものではありません。上の3台はホイールベースが2,490mm~7,125mmと3倍近く開き、最小回転半径も4.5m~10.4mまで動きます。同じ通称の中でも車型が変われば数値は変わるので、入る車が決まっているならその車型の諸元表をそのまま使ってください。決まっていないなら、入る可能性のあるいちばん大きい車型で確かめるのが安全側です。前端オーバハングのように諸元表に載らない寸法は、車両外観図に当たるか、実車で測った値を使います。
トラックの最小回転半径は最外側のわだちで測った半径
日本の法令はこの数値の測り方をはっきり書いています。道路運送車両の保安基準(昭和26年運輸省令第67号)第6条は「自動車の最小回転半径は、最外側のわだちについて十二メートル以下でなければならない」と定め、第2項でけん引自動車と被けん引自動車は連結した状態でこの基準に適合しなければならないとしています。車両制限令(昭和36年政令第265号)第3条第1項も、道路を通行する車両の一般的制限値の1つとして「最小回転半径 車両の最外側のわだちについて十二メートル」を挙げています。
測っているのは最外側のわだち、つまりいちばん外を通るタイヤの跡です。車体の外側ではありません。諸元表の4.5mや7.2mは、その車が定常円を描いたときの外側タイヤの軌跡の半径で、前端オーバハングが外に張り出す分も、後輪が内側に切れ込む分も入っていません。だから所要道路幅にはなりません。いすゞ自身も、自社の旋回軌跡図で通過できる道路幅を検討する場合は1m以上を余裕幅として考慮してください、と書き添えています。
寸法の基準点も法令が定義しています。道路構造令第4条第2項の表の備考は、前端オーバハングを車体の前面から前輪の車軸の中心まで、軸距を前輪の車軸の中心から後輪の車軸の中心まで、後端オーバハングを後輪の車軸の中心から車体の後面までと定めています。この3つは、後で車両を作るときに入力する項目とそのまま対応します。
軌跡図が示すのは線ではなく面
旋回中のトラックが占めるのは1本の円ではありません。外側の境界をつくるのは、前端オーバハングを持つ車体前部の外側の角です。前輪のわだちより外を回ります。内側の境界をつくるのは車体後部の角ではなく、車軸の位置にある後輪です。ここがいちばん曲線の内側に寄ります。縁石を踏むか、門柱に当たるかを決めるのはこの後輪の位置で、車体の角ではありません。後輪が前輪より内側を通る差が内輪差です。前部が外へ張り出す量は前端オーバハングから出るもので、内輪差とは別に見ておく必要があります。作図の一般的な手順は車両軌跡図の書き方にまとめています。
設計車両の「普通自動車」は特定のトラックではない
道路構造令第4条第2項の設計車両「普通自動車」は、長さ12m・幅2.5m・高さ3.8m、前端オーバハング1.5m、軸距6.5m、後端オーバハング4.0m、最小回転半径12mです。これは道路の設計の基礎とする自動車であって、特定のトラック車種ではありません。後端オーバハングが4.0mと長く取られているぶん、旋回時に車体後部が外へ振り出す量は大きく出ます。設計車両が安全側に寄せてあるのはそのためです。
道路の側を設計するならこの設計車両、自社の搬入路に実際に入る車を確かめるならその車型の諸元、という使い分けになります。PathSweeperに道路構造令の設計車両が収録されているわけではありません。任意寸法の車両として、上の数値を自分で入力して使います。車両を作って保存すること自体は、アカウントにログインしていれば無料です。作った車両をプロジェクトの作図に使うときに、そのプロジェクトのProject Pass(プロジェクトパス)またはAnnual Passが必要になります。
トラックの軌跡図の書き方
ブラウザで作図する場合の手順です。インストールは不要です。画像(JPG・PNG・WebP、5 MBまで)はアカウントなしで読み込め、PDFの図面と20 MBまでのファイルは無料アカウントにログインすると読み込めます。
- **図面を読み込み、縮尺を合わせます。**敷地の図面はPDFでも画像でも構いません。既知の2点(門の幅、敷地境界、通り芯など)を指定して縮尺を合わせます。DXF/DWGで書き出すつもりなら、この縮尺合わせは必須です。
- **車両を選びます。**無料で使える標準車両は乗用車・小型貨物車・2軸トラック・バスの4種です。これは一般的なテンプレートで、どこかの設計車両ではありません。実在の車型で確かめるなら、任意寸法の車両を作ります(作成と保存は無料で、この車両を作図に使う段階でProject Passが必要になります)。
- 寸法を入れます。全幅・全長・軸距・前端オーバハングを入力すると、後端オーバハングは全長から軸距と前端オーバハングを引いた値として自動で埋まります。最小回転半径の欄は、諸元表の値がどの測り方かを選んでから入れる形になっています。保安基準が定める最小回転半径は最外側のわだち、つまりいちばん外を通るタイヤで測った半径で、国土交通省届出値を載せる諸元表の値もこれにあたります。最外側のわだちで測った回転円の直径を入力する項目を選び、諸元表の値を2倍した数値を入れてください。フォワードの7.2mなら14.4mです。車体の外側で測った半径の項目にそのまま7.2と入れると、実際より小さい円で回る車になります。
- **経路を作図します。**搬入路に実際に通る線を引きます。掃過範囲はその場で描かれ、経路を動かせば追従します。
- **余裕幅を入れます。**いすゞが自社の旋回軌跡図について書いている1m以上を目安に余裕幅を設定しておくと、当たるかどうかがそのまま図の上に出ます。車体の全周、前方、後方を別々に指定できます。
- **書き出します。**PNGとJPEGは無料です。DXFはAutoCAD 2013形式(AC1027)、単位はミリメートル、DWGはAutoCAD 2000形式(AC1015)で、掃過範囲・前軸中心の軌跡・車両外形・諸元表がレイヤに分かれて入ります。書き出す前に図面上に基準点を置くと、その点がファイルの原点(0,0)になります。CAD側で同じ点に合わせれば位置は決まります。
メーカーからCADデータが出てこない以上、重ねられる線はこうして自分で作るしかありません。逆に言えば、代表車型ではなく実際に入る車型で作れます。
通常旋回と据え切り旋回、どちらの前提で描いたか
フォーラムエイトやエムティシーの作図ソフトは、旋回方法を分けています。フォーラムエイトの製品ページは「通常旋回:一定の旋回半径での旋回」と「据え切り旋回:コーナーで一旦停止し、ハンドル据え切りで最小旋回半径となる状態での旋回」を並べ、エムティシーは後者を「停止旋回・解法1(止まりハンドル)」と呼んでいます。PathSweeperの設定にも、走りながら操舵する通常旋回と据え切り旋回の2つがあります。PathSweeperの通常旋回は操舵の速さに上限をかけて緩和区間まで計算するので、フォーラムエイトの区分では「通常旋回(クロソイド曲線法)」に近い考え方です。無料版は据え切り旋回で計算します。通常旋回で作図した経路を保存して書き出すには、そのプロジェクトのProject PassまたはAnnual Passが必要です。ブラウザだけで動くツールどうしの違いはPathSweeperとAutoTURN Onlineの比較にまとめています。
同じ経路でも、どちらを選ぶかで掃過範囲は変わります。PathSweeperでも、据え切り旋回を選んだほうが掃過範囲は小さく出ます。構内の切り返しやバックでの待機なら据え切り旋回、公道から流れの中で左折して入ってくる動きなら通常旋回、という選び方です。どちらの前提で描いた図かは、図面に書き添えておいてください。後で確認する側が同じ条件で再現できます。
よくある取り違え
- 諸元表の最小回転半径を所要道路幅として使う 測っているのは外側タイヤのわだちで、車体の張り出しも余裕幅も入っていません。
- 代表車型の旋回軌跡図をそのまま自分の車型に当てる 車型によっては所要道路幅が異なる、とメーカー自身が書いています。
- 半径と直径を取り違える その数値が半径なのか直径なのかを確かめてから入力してください。取り違えると2倍ずれます。
- 余裕幅を入れ忘れる いすゞは、自社の旋回軌跡図で道路幅を検討する場合は1m以上を余裕幅として考慮してください、と書いています。運転手は理想の線をそのままなぞりません。
- 連結車を単車の数値で確かめる 保安基準第6条第2項は、けん引自動車と被けん引自動車が連結した状態で基準に適合することを求めています。トラクタ単体の諸元は連結車の答えになりません。連結車はセミトレーラ連結車の軌跡図で扱っています。
搬入路に入るトラックの掃過範囲は、敷地の図面を読み込んでブラウザで無料で確かめられます。軌跡図を描く。無料で使えるのは標準車両4種での作図と、PNG/JPEGの書き出しまでです。実在の車型を入れた任意寸法の車両を作って保存するのも無料で、その車両をプロジェクトで使うことと、DXF/DWGの書き出しがProject Pass(€39、1プロジェクトの買い切り)に含まれます。